ガラスの家を見学した。

2016.10.17 月曜日 18:31

9月下旬遅い夏休みと銘打ってヨーロッパを旅行した。その感想等を今後何回か述べるとする。 
 
まずはパリ7区、セーヌ川の南岸の奥まったところにある「ガラスの家」。設計はピエールシャローで1931年頃の竣工。月に数回ガイド付き見学会があるのみで基本非公開。その見学会に参加することができたが、ガイドは英語なので私の語学力では全く聞き取れなかった。現役の住宅で、建築関係者、感想レポート要提出、参加費5000円超という参加条件を設けることで希望者を制限し、保存に気を使っていることが分かる。(内部撮影禁止) 
 

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さて、そのガラスの家だが、既存のアパートをリノベーションした住宅。1階が診療所、2・3階が住居という構成。リノベーションと言っても構造を完全に壊して新たに設けた数本の鉄骨柱で既存の上階を支える手段をとっている。吹抜けや天井高を巧みに操作しながら2層分の高さに3層を組み込んでいるので、平面図では分からない縦方向の空間の流れや空間の大小によるメリハリを感じられる。 
 

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元々は家具作家であるシャローの設計はとにかく細部までデザインされている。表層の造形だけなくその部分が持つ機能も含めたデザインだ。例えば写真の、広場の真ん中から二本の梯子が建っていてその上部にあるの投光器が見える。これはオリジナルの設備で夜間の室内のための照明器具だ。吹抜けのあるリビング内部にはほとんど照明器具がなくその投光器が主の照明だ。つまり、ガラスの家の象徴であるファサードのガラスブロックの壁は日光を取り込む窓という表現は正確でなく、あくまでリビングの明るくする機械なのである。 
 
また、大小5つもの階段があり、この規模としては多いと思う。住人がリビングに入るメインの階段、使用人の階段、診察室から直接書斎に行ける階段、婦人がサロンから寝室に直接入れる階段など。これらの階段によって生活動線をかなり具体的に計画されている、逆に言えば生活パータンを指定されていると言えなくもない。その他、細かいところではダイニングの引出しにはスプーンやナイフの形にくり抜かれた板が入っていてカトラリーの置き場所まで指定されている。便器自体がキャスター付で横に動く部屋まである。理由は不明、英語が分からないのが悔やまれる。 
 
この建物を見学していてデザインや納まりに関してかなり勉強になったが、一歩引いて見てみると、はたしてこの住宅は住みやすいのか否か分からない。住人は幸せだったのだろうか。築80年もの間当時のオリジナルをキープしていることで強い愛着があったことは想像できるが、現実的な実生活が想像できない。シャローのデザインの細部まで使いこなせていたのだろうか。 
 
できなかったことを証明するように、シャローは後に「教養はあってもこの家族はまだこの住宅のリズムで暮らしくれてはいない」という言葉を残している。やはり使いこなせなかったのだ。 
 
建築家としてのシャローは実は「一発屋」で、この住宅以外ほとんど作品がないようだ。同時期の有名な建築家といえばコルビュジェ。彼の建築も細部までデザインされているが、にも関わらずなんとなく住み手に選択肢を与えてくれているように思う。この部屋でこんなことをしてみたら楽しいかなと思わせるのがコルビュジェなら、シャローはこの部屋はどのように使うのが正解なのかなと考えさせられるのだ。 
 
このバランスが建築をデザインする上で重要かもしれないと思う。 
 
追伸:現場で偶然坂茂さん御一行に遭遇。テレビのままの立襟の黒い服だった。同じ服を着続けられば旅行の荷物は減るのかな。

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